2025/09/04
Cell Metabolism誌: 腸内細菌が「痩せ体質」を後押し!腸内フローラの調整がダイエットの切り札に?
Cell Metabolism誌: 腸内細菌が「痩せ体質」を後押し!腸内フローラの調整がダイエットの切り札に?論文解説:Acetylated cellulose suppresses body mass gain through gut commensals consuming host-accessible carbohydrates Cell Metabolism (2025)
2025年5月16日にCell Metabolism誌に掲載された理研からの論文Acetylated cellulose suppresses body mass gain through gut commensals consuming host-accessible carbohydrates (Cell Metab. S1550-4131(25)00223-2. (2025). doi.org/10.1016/j.cmet.2025.04.013, Online ahead of print) は、アセチル化セルロース(AceCel)という物質が、マウスの体重増加を抑制し、肥満関連の症状を改善することを示した論文で、腸内細菌叢を介して栄養素の利用可能性を制限する新しい有望なアプローチが提案されています。
概要
肥満の予防と治療には、効果的なアプローチが喫緊の課題となっています。現在の主な戦略は、生体の代謝を直接的に調整することに焦点を当てていますが、別の成果が期待できるアプローチとして、食事と生体生理を結びつける腸内細菌叢(腸内フローラ)を調整することで、栄養素の利用可能性を制限することが挙げられます。
この研究では、アセチル化セルロース(AceCel)がマウスの体重増加を抑制し、肥満に関連する代謝症状を改善することが報告されています。この効果は主に腸内細菌叢に依存しており、AceCelを摂取したマウスでは、腸内細菌叢のバランスが変化すると共に、その細菌叢の機能に影響を受けることによって、生体の肝臓における炭水化物酸化が抑制され、腸内の糖を減少させ、脂肪酸の酸化が促進されることが明らかになりました。特に、AceCelから生み出される酢酸が腸内の常在菌であるBacteroides属の細菌が、この代謝変化に寄与していることが示されました。
これらの発見は、AceCelが細菌と宿主の両方で炭水化物代謝を調節するプレバイオティクスとしての可能性を示唆しており、肥満に対する新たな治療戦略として期待されます。
AceCelが宿主の代謝に与える影響とメカニズム
AceCelの摂取は、野生型マウスと肥満モデルマウスの両方で体重増加を大幅に抑制しました。肝臓の脂肪蓄積(肝脂肪症)が改善され、肝臓と脂肪組織の質量が減少しました。他にもも血清総コレステロールと非エステル化脂肪酸が減少し、グルコース耐性も改善しました。さらにAceCelは、摂取したマウスにおける炭水化物の酸化を制限し、肝臓での脂肪酸の利用を促進しました。AceCelは体重増加を抑制し、代謝を改善しましたが、同量の酢酸とセルロースを水に溶かして投与したマウスでは同様の代謝促進効果は見られませんでした。
興味深いことに、これらの代謝変化は、摂取量とは独立して発生することが示唆されており、短期間(24時間)の投与でも脂肪酸酸化関連遺伝子の発現が上昇することが確認されています。さらに、AceCelによる代謝変化によって、グルコースの利用が抑制され、脂肪酸化が促進されたため、絶食時やケトジェニックダイエット時と同様の生理状態になっているようです。
AceCelの代謝効果における腸内細菌叢の役割
腸内細菌叢の組成と機能の変化: AceCelは腸内細菌叢の組成と機能を顕著に変化させます。具体的には、バクテロイデス種(Bacteroidales)が優勢となり、存在量が増加します。特に、中でもBacteroides thetaiotaomicron (BT)、B. ovatus、B. caccaeといった主要な菌が増加しました。また、肥満を改善することが示されているAkkermansia muciniphilaも増加しました。
AceCelの代謝効果は、腸内細菌叢に依存的であることがわかりました。というのも驚くべきことに、無菌マウス(GFマウス)では、AceCelによる体重増加抑制効果が見らなかったのです。一方で、Bacteroides thetaiotaomicron (BT) を単独で移植したマウスでは体重増加を抑制しました。
AceCelの摂取によりマウス生体内で糖の枯渇が引き起こされます。この枯渇は、腸内細菌による炭水化物発酵の促進によって引き起こされました。つまり、まずAceCel が体内でBTの増殖を刺激して腸内細菌のバランスを変化させます。増加したBTに対してさらに炭水化物代謝能力を増強する刺激を加えることで腸内のグルコース消費量を増加します。そして結果として腸内の宿主が利用可能な単純糖(マルトース、イソマルトース、スクロースなどの二糖類やグルコースなどの単糖類)を枯渇させることでカロリーを抑え体重を減らしたと分かりました。
臨床的意義と今後の展望
AceCelは、腸内細菌の代謝を標的とするプレバイオティクスとして、肥満治療の新たな戦略となる可能性を秘めています。つまり、ケトジェニックダイエットと同様の代謝効果を、食事摂取量に大きな影響を与えずにえられることはとても魅力的です。
注目すべき点は、腸内細菌叢が生み出すエネルギーはヒトの総エネルギー供給の2.5%から5%に貢献するなど、主要な栄養素の代謝と宿主の代謝機能に深く関わっています。腸内細菌叢による栄養成分代謝や供給の重要性が分かるにつれ、腸内細菌叢のバランスを変えることでヒト体内でのエネルギー供給量を調節できる可能性が考えられます。つまり、腸内細菌標的としてヒトの代謝関連疾患にたいする治療標的となりうることが示唆されたことはとても意義深い研究です。
今後、プレバイオティクスとプロバイオティクスを組み合わせた健康食品、サプリメントの開発が待たれます。